依頼を断るのが苦手なあなたへ:アサーションで叶えるスマートな断り方
依頼を断るのが苦手なのはなぜでしょうか
仕事で、あるいはプライベートで、様々な人から依頼や誘いを受ける機会は少なくありません。本来であれば、自分の状況や意思に応じて、それを受け入れるか断るかを判断できるのが望ましい状態です。しかし、「なかなか断れない」「引き受けてしまって後で苦労する」という悩みを抱えている方もいらっしゃるのではないでしょうか。
断ることに罪悪感を感じたり、「相手に嫌われたらどうしよう」「能力がないと思われたくない」「波風を立てたくない」といった不安から、自分の本心に反して「はい」と答えてしまうことがあります。結果として、自分の負担が増えたり、約束を守れなくなったり、人間関係にぎこちなさが生じたりすることもあります。
このような状況を改善し、相手との関係性を損なわずに、自分の意思を適切に伝えるための有効な方法として、「アサーション」というコミュニケーションスキルがあります。
アサーションとは:自分も相手も尊重する自己表現
アサーションとは、「自分自身を大切にし、同時に相手のことも大切にしながら、率直に、誠実に、対等に自己表現を行うこと」を指します。これは、一方的に自分の意見を押し通す「アグレッシブ」な態度とも、自分の気持ちを抑え込んでしまう「ノンアサーティブ」な態度とも異なります。
アサーティブなコミュニケーションでは、以下のような原則が大切にされます。
- 正直さ: 自分の感情や考えを正直に伝えること。
- 直接性: 伝えたい相手に直接、明確に伝えること。
- 対等性: 相手と自分を上下関係ではなく、対等な関係と見なすこと。
- 自己責任: 自分の言動に責任を持つこと。
断るという行為も、このアサーションの考え方に基づいて行うことができます。つまり、相手の依頼や気持ちを尊重しつつも、自分の状況や意思を偽りなく伝え、断るという自己表現を行うのです。アサーションは、断ることに伴う罪悪感や不安を軽減し、健全な人間関係を築くための土台となります。
関係性を損なわない断り方のステップ
アサーションを用いた断り方は、単に「できません」と言うだけではありません。相手への配慮を示しつつ、自分の意思を明確に伝えるための構造があります。ここでは、実践しやすいステップをご紹介します。
-
感謝や共感を示す(クッション言葉): まず、依頼してくれたこと、自分に声をかけてくれたことへの感謝や、相手の状況への理解を示す言葉を伝えます。「お願いしてくれてありがとうございます」「お声がけいただき嬉しいです」「大変だと思います」といったフレーズは、相手の気持ちに寄り添う姿勢を示すことができます。
-
断りの意思を明確に伝える: 曖昧な表現を避け、「今回はお引き受けできません」「その日は都合が悪いです」「申し訳ありませんが、対応できません」といったように、断りの意思をはっきりと伝えます。ただし、強い口調や冷たい態度は避け、落ち着いたトーンで伝えます。
-
理由を簡潔に説明する(任意): 必要に応じて、断る理由を簡単に説明します。長々と言い訳をするのではなく、正直かつ簡潔に伝えることが重要です。理由を伝えることで、相手は納得しやすくなります。「現在別の案件で手一杯で、ご期待に沿える品質をお約束できないため」「その日はすでに先約があるため」「私のスキルではお役に立てない可能性があるため」などが考えられます。ただし、理由を言う義務はありませんし、正直すぎる理由が不適切であれば、「都合が悪くて」といった一般的な理由でも構いません。
-
代替案を提示する(可能であれば): 完全に断るのではなく、代替案を提示することで、相手への協力的な姿勢を示すことができます。「〇〇さんにご相談してみてはいかがでしょうか」「△△の件でしたら対応可能です」「もし〇〇日以降でしたらお受けできます」といった代替案は、関係性を維持・強化することにつながります。代替案が全く提示できない場合でも問題ありません。
具体的なシチュエーション別例文
これらのステップを踏まえた、具体的な例文をいくつかご紹介します。
シチュエーション1:仕事で、納期的に無理な依頼を受けた場合
- 依頼者: 「このタスク、明後日までにやってもらえないかな?」
- 断り方: 「〇〇さん、このタスクについてお声がけいただきありがとうございます。大変助かります。 ただ、現在抱えている別の案件の納期が迫っており、誠に申し訳ないのですが、明後日までにこのタスクを高品質に完了させるのは難しい状況です。 もし可能でしたら、〇〇さんにご相談いただくか、来週でしたら対応できるかもしれません。いかがでしょうか。」
シチュエーション2:友人から、気が乗らない誘いを受けた場合
- 友人: 「今週末、〇〇に遊びに行くんだけど、一緒に行かない?」
- 断り方: 「わー、〇〇、楽しそうだね!誘ってくれて本当に嬉しいよ。ありがとう。 でも、ごめんね、その日はちょっと別の予定があって、今回はパスさせてもらうね。 みんなで楽しんできてね!また今度、別の機会に誘ってくれたら嬉しいな。」
シチュエーション3:家族から、自分の負担が大きい頼み事を受けた場合
- 家族: 「悪いんだけど、来週一週間、私の代わりに毎日の買い物と料理をお願いできないかな?」
- 断り方: 「頼ってくれてありがとう。大変だよね。 ただ、ごめんね、毎日の買い物と料理となると、今の私にはちょっと負担が大きくて、引き受けるのが難しいんだ。 もし、週末にまとめて買い出しを手伝うとか、何か他のことで力になれることがあれば言ってね。」
シチュエーション4:自分の専門外の協力を頼まれた場合
- 相手: 「△△のプロジェクトで、□□の分析を手伝ってくれないか?君ならできると思って。」
- 断り方: 「お声がけいただき光栄です。このプロジェクトに関心を持っていただけて嬉しいです。 ただ、□□の分析は私の現在の専門分野とは少し異なりまして、ご期待に沿える正確性やスピードで対応できるか自信がありません。 この分野については、〇〇さんの方が詳しいかと思いますので、そちらにご相談いただく方がプロジェクトのためになるかと存じます。」
断った後の関係性について
アサーティブに断ることは、決して相手を拒絶したり、関係を断ち切ったりすることではありません。むしろ、自分の正直な気持ちを伝えることで、お互いにとって無理のない、誠実な関係を築くことにつながります。
一度断ったからといって、今後の関係が壊れるわけではありません。大切なのは、断る際に相手への敬意を払い、可能な範囲で代替案を提示したり、別の形での協力の意思を示したりすることです。これにより、相手は「今回は難しかったようだが、全く協力する気がないわけではないのだな」と感じることができます。
まとめ
依頼を断ることは、自分の時間、エネルギー、心身の健康を守るために必要な自己主張の行為です。アサーションのスキルを用いることで、この自己主張を、相手を尊重し、関係性を損なわない形で行うことができます。
今回ご紹介したステップや例文は、あくまで一般的な枠組みです。状況や相手との関係性に応じて、言葉遣いや伝え方を調整することが大切です。しかし、これらの基本的な考え方を持つことで、断ることへの苦手意識を克服し、より健康的で対等なコミュニケーションを実現するための一歩を踏み出すことができるはずです。
練習を重ねることで、アサーティブな断り方は自然にできるようになります。自分自身の気持ちを大切にしながら、相手との良好な関係も維持していくためのスキルとして、ぜひ実践してみてください。