仕事の指示、曖昧さを解消するアサーション:誤解を防ぎ、成果を出す伝え方
仕事における曖昧な指示・要求が引き起こす問題
仕事を進める上で、上司やクライアントから受け取る指示や要求が曖昧で、「結局何をすれば良いのだろう」「これで合っているのだろうか」と悩むことは少なくありません。
曖昧な指示や要求は、以下のような様々な問題を引き起こす可能性があります。
- 誤解や手戻りの発生: 指示の意図を正確に把握できないため、見当違いの作業を進めてしまい、後でやり直しになる。
- 作業の遅延: 不明瞭な点を解消しようと迷ったり、確認に時間を要したりすることで、全体のスケジュールに遅れが生じる。
- 成果物の質の低下: 曖昧なまま作業を進めた結果、求められる品質や内容に達しない成果物になる。
- ストレスや不安の増大: 不確かな状況で作業を進めることに対する心理的な負担が大きくなる。
- 関係性の悪化: 誤解によるトラブルや、期待に応えられないことへの不満が、相手との関係性に悪影響を及ぼす可能性がある。
これらの問題を避けるためには、指示や要求の曖昧さをそのままにせず、積極的に明確化していくコミュニケーションが重要です。しかし、「質問すると相手に悪い印象を与えてしまうのではないか」「能力が低いと思われたくない」といった懸念から、必要な確認をためらってしまう方もいらっしゃるかもしれません。
アサーションで曖昧さを解消する
ここで役立つのが、アサーションの考え方です。アサーションとは、「相手を尊重しつつ、自分の気持ちや考え、要求を正直かつ率直に表現すること」を指します。曖昧な指示に対してアサーションを用いることは、単に自分の疑問を解消するだけでなく、以下の点でメリットがあります。
- 自分自身の理解と納得: 不明瞭な点を明確にすることで、自信を持って作業に取り組めます。
- 相手への配慮: 曖昧な点を解消しようとすることは、相手の意図を正しく理解し、期待に応えたいという誠実さの表れです。これは相手への尊重に繋がります。
- 成果の質の向上: 指示の意図や具体的な要件が明確になれば、より精度の高い成果物を作成できます。
- 将来的な問題の予防: 早期に疑問点を解消することで、後々の大きな手戻りやトラブルを防ぐことができます。
曖昧な指示への対応におけるアサーションは、「自分の理解度を正直に伝え、必要な情報を得る権利を行使すること」、そして「相手が意図する結果を正確に達成するために協力すること」の両立を目指すものです。
曖昧な指示・要求を明確にする具体的なアサーションステップ
曖昧な指示や要求に直面した際に、関係性を損なわずに明確化するための具体的なステップを以下に示します。
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曖昧さに気づき、状況を整理する
- 指示や要求を聞いた際に、「具体的にどういうことだろう」「いくつかの解釈ができるな」と感じたら、それが曖昧さのサインです。
- 感情的にならず、指示の内容を客観的に捉え、どの部分が不明瞭なのか、何が分かれば作業を進められるのかを整理します。
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確認・質問の意図を明確に伝える
- 質問する前に、「なぜ確認したいのか」という前向きな意図を相手に伝えます。これは、相手への配慮を示すと同時に、質問が建設的な目的であることを伝えるためです。
- 例:「より正確に理解し、スムーズに作業を進めたいため、いくつか確認させていただけますでしょうか。」
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具体的な質問をする
- 「よく分かりません」と漠然と伝えるのではなく、具体的にどの点が不明なのか、どのような情報が必要なのかを伝えます。
- 具体的な質問の例:
- 範囲や対象:「この資料の確認というのは、〜から〜までの期間に関する部分でよろしいでしょうか?」
- 優先度や期日:「急ぎとのことですが、具体的な期日はございますでしょうか?」
- 目的や背景:「この作業を行う目的は〜ということでよろしいでしょうか?」「この要求の背景にはどのような意図がございますでしょうか?」
- 具体的な内容や方法:「『洗練された感じ』とのことですが、具体的なデザイン要素(色、フォント、レイアウトなど)でイメージに近いものはございますか?」「この部分の処理は、Aの方法とBの方法のどちらを想定されていらっしゃいますか?」
- 期待される成果:「この作業を完了した時点で、どのような状態になっていることを期待されていらっしゃいますか?」
- はい/いいえで答えられるクローズドクエスチョンと、具体的な説明を引き出すオープンクエスチョンを使い分けます。
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自分の理解を伝え、確認を求める
- 自分がどのように理解しているかを伝え、「この理解で合っていますか?」と相手に確認を求める方法も有効です。誤解している点を早期に発見できます。
- 例:「〇〇さんの指示は、〜という内容で、期日は〜まで、認識合っておりますでしょうか?」
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代替案や提案を提示する(必要な場合)
- 不明瞭な点について、いくつかの選択肢や代替案を提示し、どれが適切か相手に選んでもらうことで、明確化を促すことができます。
- 例:「この部分、解釈がいくつか考えられるのですが、A、B、Cのいずれかの方法で進めるのはいかがでしょうか?」「〜という情報があれば、より正確に進められるのですが、ご提供可能でしょうか?」
具体的なシチュエーションでの例文
シチュエーション1:上司からの曖昧な指示
指示: 「このプロジェクト、例のアレ、いい感じに進めておいて。」
問題点: 「例のアレ」が具体的に何を指すのか不明。「いい感じ」という評価基準も曖昧。
アサーションでの伝え方:
「〇〇さん、このプロジェクトの件、ありがとうございます。一点確認させていただきたいのですが、『例のアレ』というのは、先週お話しした〇〇の件(または具体的なタスク名)でよろしいでしょうか? また、『いい感じに進める』という点について、具体的にどのような状態をイメージされていらっしゃいますか? 例えば、どこまで進んでいれば良いか、またはどのような点を特に重視すれば良いかなど、もう少し詳しくお教えいただけますと、よりスムーズに進められます。」
シチュエーション2:クライアントからの漠然とした要望
要望: 「ウェブサイトのデザイン、もう少し『ユーザーフレンドリー』にしてほしいんだよね。」
問題点: 「ユーザーフレンドリー」は解釈が広く、具体的なデザイン要素に落とし込みにくい。
アサーションでの伝え方:
「〇〇様、『ユーザーフレンドリーに』というご要望、承知いたしました。ありがとうございます。お客様のイメージされている『ユーザーフレンドリー』について、より具体的に理解するため、いくつか確認させていただけますでしょうか。例えば、どのような点が現状使いにくいと感じられていらっしゃるか、または、どのような操作感やデザイン要素(シンプルさ、分かりやすいナビゲーション、アクセシビリティへの配慮など)が『ユーザーフレンドリー』に繋がるとお考えでしょうか? もし参考になるウェブサイトなどがございましたら、お教えいただけますと幸いです。」
シチュエーション3:友人からの不明瞭な誘い
誘い: 「今度さ、なんか面白いことやろうよ!」
問題点: 「いつ」「何を」「どこで」やるのか、具体性が全くない。
アサーションでの伝え方:
「声かけてくれてありがとう、嬉しいな!『面白いこと』、いいね! 具体的にいつ頃、どんなこと(例えば、ご飯?イベント?それとも新しい趣味?)をしたいと思っているか、もう少し詳しく聞かせてもらえる? それによって、私も参加しやすいか考えられるから。」
まとめ:明確なコミュニケーションは信頼関係を築く
曖昧な指示や要求を明確にすることは、一時的には少し手間がかかるように感じるかもしれません。しかし、これは後々の誤解や手戻りを防ぎ、結果として効率的に質の高い成果を出すために不可欠なプロセスです。
アサーションの考え方に基づき、相手への敬意を払いながらも、自分の理解状況を正直に伝え、必要な情報を得るために積極的に質問や確認を行うこと。これは、自分自身の業務遂行能力を高めるだけでなく、相手との信頼関係をより強固なものにすることにも繋がります。
不明瞭な点があれば、臆することなく、建設的な態度で明確化を試みましょう。それは、プロフェッショナルとしての責任ある行動であり、より良い仕事のための一歩となります。