意見の対立で自信を持つ:関係性を損なわずに「私はそう思いません」を伝える方法
意見の対立を恐れていませんか?関係性を保ちながら自分の考えを伝える技術
仕事の会議中、あるいは友人や家族との話し合いの中で、相手の意見に同意できない場面に直面することは少なくありません。そんな時、「ここで反対意見を言ったら角が立つかもしれない」「関係性が悪くなるのは避けたい」と考え、自分の本当の考えを飲み込んでしまったり、あるいは感情的に反論してしまい、後で後悔したりした経験はないでしょうか。
意見の対立は、必ずしも悪いことではありません。多様な意見が出ることによって、より良い結論にたどり着ける場合もあります。しかし、多くの人が意見の相違を恐れ、建設的な話し合いが進まない原因となることがあります。
本記事では、アサーションの考え方を活用し、相手との関係性を損なうことなく、自分の意見や「同意できない」という意思を明確かつ丁寧に伝えるための方法をご紹介します。
アサーションの基本原則:なぜ意見の対立でも有効なのか
アサーションとは、自分自身も相手も大切にする自己表現の方法です。相手の権利や感情を尊重しつつ、自分の気持ち、考え、要求などを正直かつ率直に表現します。このアサーションの考え方は、意見が対立する場面でこそ力を発揮します。
アサーションにおける重要な原則は以下の通りです。
- 自己表現の権利の尊重: あなた自身が自分の意見や感情を持つ権利があるのと同様に、相手もまたその権利を持っています。
- 相手の権利の尊重: 相手の意見や感情を否定したり、攻撃したりすることなく、一人の人間として尊重します。
- 正直かつ直接的な表現: 遠回しすぎたり、曖昧すぎたりせず、意図を明確に伝えます。
- 「私メッセージ」の使用: 主語を「私」にして、自分の見え方、感じ方、考えを伝えます。「あなたは間違っている」ではなく、「私は〇〇だと考えています」と表現します。
これらの原則に基づけば、異なる意見を持つことは、相手への攻撃や否定ではなく、「私はあなたとは違う見解を持っています」という自分の状態を正直に伝える行為となります。相手を尊重しつつ、自分の意見を表明することで、健全なコミュニケーションを築くことができるのです。
異なる意見へのアサーティブなアプローチ:3つのステップ
意見が対立した際に、関係性を損なわずに自分の考えを伝えるためには、いくつかのステップを踏むことが有効です。
ステップ1:相手の意見を正確に理解する
まず、相手の意見に耳を傾け、その内容を正確に理解しようと努めます。すぐに反論するのではなく、「〇〇ということですね」「つまり、××というご意見でしょうか」のように、確認や要約を挟むことで、相手は「自分の話をしっかりと聞いてもらえている」と感じやすくなります。これは、相手への尊重を示す重要なステップです。
ステップ2:同意できる点や相手の意図に配慮する
意見が全く一致しないということは稀です。たとえ結論が異なっていても、考え方の一部や、相手がその意見に至った背景、目的などに共感できる点があるかもしれません。全く同意できない場合でも、「〇〇さんの考えは理解できました」のように、意見が存在することを認識した旨を伝えます。
これは、相手の意見を完全に肯定することではなく、相手の考えや立場に対する一定の理解や配慮を示すものです。これにより、対立構造を和らげることができます。
ステップ3:自分の意見や考えを「私メッセージ」で伝える
相手への配慮を示した後で、自分の意見を明確に伝えます。この際、「〜だと思います」「〜と感じています」「私の考えでは〜です」のように、「私」を主語にした表現を意識します。
- 事実や観察:「〜という点についてですが」
- 自分の感情や考え:「私は〜だと感じています」「私は〜と考えます」
- 提案や希望:「〜という方法も考えられます」「〜してはどうでしょうか」
このように構成することで、相手の意見を否定するのではなく、あくまで「自分の視点」や「もう一つの考え方」を提示する形になり、相手は攻撃されていると感じにくくなります。
具体的なシチュエーション別アサーション例文
ここでは、意見が対立しやすい具体的なシチュエーションを想定し、関係性を損なわずに自分の意見を伝えるための例文をいくつかご紹介します。
シチュエーション1:会議で提案内容に同意できない
「A案で進めるべきだ」という意見が出ているが、あなたはB案の方が良いと考えている。
相手の意見、承知いたしました。A案の〇〇という点は素晴らしいと思いますし、メリットも理解できます。(相手への配慮)
ただ、私の視点から申し上げますと、B案には△△というメリットもあり、長期的に見ると□□という点でより効果的になる可能性もあるのではないかと考えています。(私メッセージ+自分の意見・提案)
もし可能でしたら、B案についてももう少し検討いただく時間はございますでしょうか。(具体的な提案)
シチュエーション2:友人からの誘いを断りたいが、誘いの理由に賛同できない(例:特定の活動への誘いだが、その活動に興味がない、あるいは否定的な考えを持っている)
友人に「今度、〜という活動に参加してみない?」と誘われたが、その活動には抵抗がある。
誘ってくれてありがとう。あなたがその活動に魅力を感じていることはよく分かりました。(相手への配慮)
ただ、正直に言うと、私は〜という点について少し考え方が異なっておりまして、今回は残念ながら参加を見送らせていただきたいと思っています。(私メッセージ+同意できない点・自分の考え)
また別の機会に、あなたが興味のある別のことや、お互いに楽しめることでぜひ一緒に過ごしましょう。(関係維持の意向)
シチュエーション3:家族からのアドバイスに納得できない
家族から、自分のキャリアや私生活について、現在のあなたの考えとは異なる強いアドバイスを受けている。
お父さん/お母さんが私のことを心配して、アドバイスをくれていること、とても感謝しています。(相手への配慮)
〇〇についてのご意見、確かに一理ある部分もあると思います。(部分的な同意)
ただ、今の私は△△という目標に向かっており、□□という考え方で進めてみたいと考えています。(私メッセージ+自分の考え・現状)
一度自分で試行錯誤してみたいので、少し見守っていただけると嬉しいです。(具体的な要望)
これらの例文のように、「相手の意見を一度受け止める(聞き、理解しようとする)」→「同意できる点や意図への配慮を示す」→「自分の意見や考えを私メッセージで伝える」という流れを意識することで、対立ではなく「お互いの意見を交換する」というコミュニケーションの形に近づけることができます。
実践へのステップ:小さなことから始めてみましょう
意見の対立で自分の考えを明確に伝えることは、訓練によって身につけられるスキルです。いきなり難しい場面で実践するのではなく、まずは小さなことから始めてみることをお勧めします。
- 身近な人との会話で練習: 家族や信頼できる友人との些細な意見の相違で、アサーションのステップを試してみてください。
- 「私メッセージ」を意識する: 日常会話で自分の感情や考えを話す際に、主語を「私」にすることを意識的に行います。
- 相手の意見を聞く練習: 相手の話を途中で遮らず、最後まで聞き、理解しようと努める練習をします。
- ロールプレイング: 意見が対立する場面を想定し、具体的な言葉遣いを声に出して練習してみることも有効です。
アサーションは、相手を打ち負かすための技術ではなく、自分と相手、双方を尊重しながら、正直かつ健全な関係性を築くためのコミュニケーションスキルです。意見の対立を恐れず、自分の考えを適切に表現できるようになることは、自己肯定感を高め、より充実した人間関係を築く上で大きな助けとなるでしょう。
まとめ
意見が対立する場面で自分の考えを伝えることは、多くの人にとって難しい課題です。しかし、アサーションの考え方に基づき、相手への尊重を忘れずに「私メッセージ」で自分の意見を伝えることで、関係性を損なうことなく、健全なコミュニケーションを築くことが可能です。
相手の意見を理解しようと努め、配慮を示した上で、正直に自分の考えを伝える。このプロセスを意識し、日々のコミュニケーションの中で実践を重ねることで、あなたは意見の対立を恐れることなく、自信を持って自己表現できるようになるでしょう。この記事が、あなたのコミュニケーションにおける一助となれば幸いです。