目標設定・評価面談で自分の貢献度をアピール:関係性を守るアサーション
目標設定や評価面談は、ご自身のキャリアを左右する重要な機会です。これらの場で、自分の仕事に対する貢献度を正当に伝えたり、今後の目標やキャリアパスについて自分の考えや要望を明確に表現したりすることは、自己成長やモチベーション維持のために非常に大切です。しかし、「評価が下がるのではないか」「関係性が悪くなるのではないか」といった懸念から、十分に自己主張できないと感じる方もいらっしゃるかもしれません。
このような状況で役立つのが「アサーション」というコミュニケーションスキルです。アサーションは、相手の権利や気持ちを尊重しつつ、自分の権利や気持ち、考え、要求を正直かつ率直に表現するコミュニケーション技法です。目標設定や評価面談においてアサーションを用いることで、上司や評価者との関係性を損なうことなく、建設的に自己主張することが可能になります。
アサーションの基本原則
アサーションを実践する上で理解しておきたい基本的な考え方があります。
- 自己表現の権利の尊重: あなたには、自分の考えや感情、要求を表現する権利があります。
- 相手の権利の尊重: 相手にも同様に、自分の考えや感情、要求を表現する権利があります。
- 正直かつ率直なコミュニケーション: 誠実に、そして遠回しすぎず、自分の意図を伝えることが重要です。
- Win-Winの関係を目指す: どちらか一方が我慢するのではなく、お互いが納得できる解決策を見つけることを目指します。
これらの原則に基づいたコミュニケーションは、一方的な要求や受動的な態度とは異なり、対等で健全な人間関係を築く土台となります。
なぜ目標設定・評価面談でアサーションが必要なのか
目標設定や評価面談の場では、多くの場合、上司や会社からの期待が伝えられ、それに対する自身の成果や目標をすり合わせるプロセスが行われます。この際にアサーションが不可欠な理由は以下の通りです。
- 貢献度の正当な評価: 客観的な事実に基づいて自分の貢献度や成果を伝えることで、正当な評価を得る可能性が高まります。漠然とした報告では、成果が正確に伝わらない可能性があります。
- 適切な目標設定: 会社の目標と個人の目標を整合させつつ、現実的で挑戦しがいのある、かつご自身の成長につながる目標を設定するために、自分の能力や興味、今後のキャリアに関する希望を伝えることが重要です。一方的に与えられた目標だけでなく、自身の意見を反映させることで、目標達成へのモチベーションも高まります。
- キャリアパスの形成: 将来的にどのような役割を担いたいか、どのようなスキルを習得したいかといったキャリアパスに関する考えを伝えることで、会社からのサポートや適切な機会を得られる可能性が生まれます。
- 相互理解の促進: アサーティブなコミュニケーションを通じて、上司はあなたの強みや弱み、考え方をより深く理解することができます。これにより、より適切なサポートやフィードバックを受けられるようになります。
目標設定・評価面談で使えるアサーションテクニック
ここでは、具体的な状況を想定したアサーションのフレーズやアプローチをご紹介します。アサーションの基本的な構成要素であるDESC法(Describe:状況描写、Express:気持ち表現、Suggest:提案、Choose:結果選択)を意識すると、より効果的なコミュニケーションが可能です。
1. 貢献度を伝える
過去の成果や貢献について話す際は、客観的な事実に基づき、それがチームや会社にどのような影響を与えたかを具体的に伝えます。
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DESC法の応用:
- Describe: 「前四半期では、〇〇プロジェクトにおいて□□の目標達成に向けて取り組みました。」(客観的な状況や事実)
- Express: 「その結果、△△という成果を出すことができました。」(自身の行動や努力の結果)「これは、チーム全体の生産性向上に貢献できたと考えております。」(成果がもたらした影響や自身の評価)
- Suggest: (評価に対する期待や、その成果を今後どう活かしたいかなど、次のステップにつなげる提案)「この経験を活かし、今後はさらに□□の領域で貢献していきたいと考えております。」
- Choose: (提案が受け入れられた場合・受け入れられなかった場合の結果を示唆)
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例文:
- 「〇〇プロジェクトでは、納期が厳しい中、チームと協力して△△の課題を解決し、計画通りに完了させることができました。これにより、クライアントからの信頼維持につながったと考えております。」
- 「新しいツールである□□の導入にあたり、自主的に学習を進め、チーム内で使用方法を共有しました。その結果、業務効率が平均で△△%向上したというデータが出ております。」
ポイント: 事実(数値や具体的な行動)と、それがもたらしたポジティブな結果や影響をセットで伝えることが重要です。
2. 目標設定について意見を言う・交渉する
与えられた目標に対して、自身の考えや能力を考慮した上で、より適切な目標を提案したり、内容を調整したりする場面でアサーションを活用します。
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DESC法の応用:
- Describe: 「来期の目標として、〇〇という項目を設定いただきました。」(現在の状況や提示された目標)
- Express: 「この目標は非常に挑戦的であり、私自身のスキル向上にもつながると感じております。」(目標に対する前向きな評価)「一方で、現在のリソース状況や他の優先業務を考慮すると、△△の部分について懸念がございます。」(率直な懸念や課題)
- Suggest: 「そこで、目標の一部を□□のように調整するか、あるいは、目標達成に必要な△△のサポートをいただくことは可能でしょうか。」(具体的な代替案や要望)
- Choose: (提案が受け入れられた場合・受け入れられなかった場合の結果を示唆)
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例文:
- 「〇〇という目標についてですが、現在の業務量と並行して達成するためには、△△のようなリソースが必要になると考えております。もしそのリソースの確保が難しいようでしたら、目標の一部を□□のように調整することもご検討いただけますでしょうか。」
- 「□□の目標はぜひ挑戦したいのですが、私が現在持っているスキルでは不足している部分があります。もし可能であれば、関連する研修を受けさせていただく、あるいは経験のある方にサポートをお願いできれば幸いです。」
ポイント: 目標の意図を理解しようとする姿勢を示しつつ、現実的な視点や自身の能力、必要なサポートについて具体的に伝えることが大切です。単に「できません」と断るのではなく、代替案や条件を提示することで、建設的な話し合いになります。
3. キャリアパスに関する要望を伝える
将来的に挑戦したいことや、身につけたいスキルなど、自身のキャリアに関する希望を伝えます。
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DESC法の応用:
- Describe: 「これまでの〇〇の経験を通じて、△△の領域に強い興味を持つようになりました。」(自身の経験や現在の興味)
- Express: 「将来的には、この△△の専門性をさらに深め、□□のような役割で貢献していきたいと考えております。」(将来的なビジョンや願望)
- Suggest: 「そのため、今後、△△に関連する業務に携わる機会をいただくことは可能でしょうか。あるいは、関連する研修や資格取得について、会社からの支援を得ることはできますでしょうか。」(具体的な要望や提案)
- Choose: (提案が受け入れられた場合・受け入れられなかった場合の結果を示唆)
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例文:
- 「現在担当している業務もやりがいを感じておりますが、以前からマーケティングの分野に興味があり、将来的にはその領域でスキルを磨きたいと考えております。もし関連するプロジェクトがあれば、ぜひ参加させていただきたいです。」
- 「マネジメントのスキルを身につけたいと考えており、リーダーシップに関する研修や、後輩指導などの機会をいただければ幸いです。」
ポイント: 漠然とした希望ではなく、これまでの経験や現在の業務とどうつながるのか、そしてそれが将来会社にどう貢献できるのかを具体的に示すことで、単なる個人的な願望ではなく、建設的な提案として受け取られやすくなります。
4. 不当だと感じる評価への対応
万が一、納得のいかない評価を受けた場合も、感情的にならず、アサーティブに対応することが重要です。
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DESC法の応用:
- Describe: 「今回の評価で〇〇という点を指摘いただきましたが、私自身は△△のように認識しておりました。」(評価の内容と自身の認識との違いを示す)
- Express: 「正直なところ、その点については少し評価に隔たりがあるように感じており、どのような点が不足していたのか、具体的にご説明いただけますでしょうか。」(感情を伝えつつ、事実確認と説明を求める)
- Suggest: 「今後改善していくために、具体的にどのような点を意識すれば良いか、アドバイスをいただけますでしょうか。」(改善に向けた建設的な姿勢を示す)
- Choose: (説明を聞いた上で、今後の対応や認識のすり合わせを行う)
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例文:
- 「〇〇のプロジェクトについて、△△という評価を受けましたが、私は□□のような工夫を行い、チームに貢献できたと考えております。私の認識と評価に違いがあるようでしたら、その点について詳しく教えていただけますでしょうか。」
- 「今回の評価について、いくつか質問させてください。特に□□の点について、具体的なフィードバックをいただくことで、今後の業務に活かしたいと考えております。」
ポイント: 評価自体を否定するのではなく、まずは事実確認と具体的なフィードバックを求める姿勢が重要です。感情的にならず、冷静に、具体的な事例を挙げながら話すことが、建設的な対話につながります。
実践に向けたステップと注意点
目標設定や評価面談でアサーションを実践するためには、準備が鍵となります。
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事前に準備する:
- 成果の整理: 担当した業務、達成した目標、その過程での工夫や努力、具体的な成果(数値、改善点など)、それが会社やチームにどう貢献したかをリストアップします。
- 目標・要望の言語化: 来期取り組みたい目標、挑戦したいこと、身につけたいスキル、キャリアに関する希望などを具体的に言葉にします。なぜそれが重要なのか、それが実現することで自身や会社にどのようなメリットがあるのかも整理しておきます。
- 懸念事項の検討: 想定される上司からの質問や懸念、ご自身が感じている課題なども事前に考えておきます。
- 伝え方の練習: 準備した内容を、実際に声に出して練習してみます。DESC法などのフレームワークを意識しながら、落ち着いて論理的に話す練習をします。
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面談中:
- 相手の話を傾聴する: まずは上司の話をしっかりと聞きます。評価や期待について、その意図を理解しようと努めます。
- 事実に即して話す: 準備しておいた成果や考えを、客観的な事実や具体的なエピソードを交えながら伝えます。
- 感情的にならない: 緊張したり、否定的な意見を受けたりしても、感情的に反論するのではなく、落ち着いて対応します。
- 不明点は確認する: 評価や目標設定について不明な点があれば、その場で質問し、誤解がないようにします。
- 代替案や要望を伝える: 単なる不満や反対意見ではなく、どうすればより良くなるか、どのようなサポートが必要かといった建設的な提案を行います。
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面談後:
- 合意内容を確認する: 面談で合意した内容(目標、今後のアクションなど)を再確認し、必要であれば文書化します。
- フィードバックを活かす: 受けたフィードバックを真摯に受け止め、今後の業務や自己成長に活かしていきます。
目標設定や評価面談におけるアサーションは、単に自分の意見を押し通すことではありません。自身の仕事に対する真摯な姿勢を示し、会社との良好なパートナーシップを築きながら、 mutually beneficial(相互に有益な)な結果を目指すための重要なスキルです。適切な準備とアサーションの技術を用いることで、これらの場を自身の成長とキャリア形成の機会として最大限に活かすことができるでしょう。
まとめ
目標設定や評価面談で自信を持って自己主張することは、キャリアを築く上で不可欠です。アサーションは、相手への配慮を忘れず、かつ自分の正直な考えや貢献度、そしてキャリアへの展望を建設的に伝えるための強力なツールとなります。
この記事でご紹介したアサーションの原則や具体的なテクニック、例文、そして実践に向けたステップが、皆様が目標設定や評価面談の場で自信を持って臨むための一助となれば幸いです。アサーションを継続的に実践することで、仕事におけるコミュニケーションだけでなく、様々な人間関係においてもより健全で満足のいく関係を築いていくことができるでしょう。