「NO」を伝える技術

自分の気持ちも相手も大切にするコミュニケーション:受動性・攻撃性を手放すアサーション実践法

Tags: アサーション, コミュニケーション, 自己主張, 人間関係, 心理学

言いたいことが言えない、あるいはついキツく言ってしまう悩みを抱えていませんか

コミュニケーションは、私たちの日常生活や仕事において不可欠な要素です。しかし、「言いたいことが言えない」「意見を求められても黙ってしまう」といった受動的な態度をとってしまったり、逆に「つい語気が荒くなってしまう」「相手を責めるような言い方をしてしまう」といった攻撃的な態度をとってしまったりすることはないでしょうか。

こうしたコミュニケーションスタイルは、自分の本心を伝えきれずにストレスを溜めたり、相手との関係を損ねてしまったりする原因となります。結果として、自分の要望が通らなかったり、協力的な関係を築くのが難しくなったりすることが少なくありません。

では、どうすれば自分も相手も大切にしながら、自分の意思を適切に伝えられるようになるのでしょうか。その鍵となるのが、「アサーション」というコミュニケーション技術です。

アサーションとは何か?なぜ関係性を守れるのか

アサーション(Assertion)とは、自分と相手の両方を尊重しつつ、自分の気持ちや考え、要求などを正直に、率直に表現するコミュニケーションスタイルのことです。これは、相手に言いくるめられたり、要求を呑みすぎたりする「受動的」な態度とも、相手を威圧したり、非難したりする「攻撃的」な態度とも異なります。

アサーションの基本的な考え方には、以下の原則があります。

アサーションが関係性を損なわずに意思を伝えられるのは、この「相手への配慮と尊重」を同時に行う点にあります。単に自分の意見を押し通すのではなく、お互いの立場や権利を認め合った上で、建設的な対話を目指す姿勢が、信頼関係の維持・構築に繋がるのです。

あなたはどのタイプ?受動的・攻撃的・アサーティブなコミュニケーションの特徴

自分がどのようなコミュニケーションの傾向があるのかを理解することは、アサーションを身につけるための第一歩です。

受動的なコミュニケーションの特徴

このスタイルは、波風を立てたくない、相手に嫌われたくない、といった気持ちが背景にあることが多いです。一時的には衝突を避けられますが、自分の要求が通らない、ストレスを溜め込む、不満が蓄積するといった問題が生じやすくなります。

攻撃的なコミュニケーションの特徴

このスタイルは、自分が正しい、相手が間違っている、あるいは自分の弱みを見せたくない、といった気持ちが背景にあることが多いです。短期的には自分の要求を通せることもありますが、相手との関係が悪化し、信頼を失い、孤立を招きやすくなります。

アサーティブなコミュニケーションの特徴

このスタイルは、自分も相手も尊重するという対等な関係に基づいています。自己肯定感を保ちつつ、相手との良好な関係を築き、問題解決や相互理解に繋がりやすくなります。

アサーティブになるための具体的なステップとテクニック

受動的または攻撃的なパターンからアサーティブなスタイルへ移行するためには、意識的な練習が必要です。

1. 自分の気持ちや考えを認識する

まず、自分がどのような状況で、どのような気持ちになり、どう考えたいのかを明確にすることが重要です。受動的な人は自分の気持ちを抑え込みがちですし、攻撃的な人は相手への怒りなどに囚われがちです。一呼吸おき、自分が本当に感じていること、伝えたいことを内省する練習をしましょう。

2. 具体的なアサーションテクニックを学ぶ

アサーションを実践するための具体的なフレームワークとして「DESC法」が広く知られています。

3. 「I(アイ)メッセージ」を使う

アサーションの基本中の基本とも言えるのがIメッセージです。「あなたは〜だ」「〜するのはあなたのせいだ」のように相手を主語にしてしまうと、相手は非難されたと感じ、反発しやすくなります。代わりに、「私は〜と感じる」「私は〜と思う」「私は〜が嬉しい」のように、自分の内面を主語にして伝えます。これにより、自分の状態を正直に伝えつつ、相手を責めずに済むため、建設的な対話に繋がりやすくなります。

4. 小さな一歩から実践する

いきなり難しい状況で完璧なアサーションを目指す必要はありません。まずは、身近な相手や、比較的ストレスの少ない状況で練習を始めてみましょう。例えば、

シチュエーション別アサーション例文

具体的な状況でどのようにアサーションを使えるのか、例文を見てみましょう。受動的・攻撃的な言い方と比較することで、アサーティブな表現の違いが分かりやすくなります。

シチュエーション1:クライアントから急な仕様変更を依頼された

シチュエーション2:友人から断りにくい誘いを受けた

シチュエーション3:家族から自分の生活について過剰なアドバイスを受けた

これらの例文はあくまで一例です。大切なのは、状況に合わせて、ご自身の言葉で正直に、しかし相手を尊重する気持ちを持って伝えることです。

アサーション実践への道

アサーションは、すぐに完璧にできる魔法のようなものではありません。練習と経験を通して、少しずつ身についていくスキルです。

まとめ:アサーションで手に入れる対等で健やかな関係

受動的なコミュニケーションは自己肯定感を下げ、不満を溜め込みます。攻撃的なコミュニケーションは人間関係を破壊し、孤立を招きます。アサーションは、このどちらの極端にも陥らず、自分自身の気持ちや意見を大切にしながら、同時に相手のことも尊重する、対等なコミュニケーションを実現するための技術です。

アサーションを実践することで、自分のストレスを軽減し、自信を持って自己表現できるようになります。また、相手との間に健全な境界線を築き、より建設的で協力的な人間関係を育むことができます。

もしあなたが、言いたいことが言えずに悩んでいる、あるいはついキツい言い方をしてしまう自分を変えたいと思っているのであれば、ぜひ今日からアサーションを意識したコミュニケーションを始めてみてください。それは、自分自身を大切にし、周囲との関係をより豊かにするための、価値ある一歩となるはずです。