アサーションは誰でもできる:自信ゼロから始める自己主張の練習法
自信がないと感じるあなたへ:アサーションは練習で身につくスキルです
仕事やプライベートにおいて、自分の意見や要望を伝えたいのに、「自信がない」「どうせうまくいかないだろう」「相手に悪く思われたらどうしよう」といった不安から、つい黙り込んでしまったり、相手の意見に合わせてしまったりすることはありませんでしょうか。
このような経験が多い場合、「自分にはアサーションは難しい」と感じてしまうかもしれません。しかし、アサーションは生まれ持った性格ではなく、誰もが後から学ぶことのできるコミュニケーションスキルです。たとえ現時点で自信がないと感じていても、適切なステップで練習を重ねることで、少しずつ自己主張できるようになります。
この記事では、自信がない方がアサーションを始めるための心構えと、今日から実践できる具体的な練習ステップをご紹介します。
なぜ自信がないとアサーションが難しく感じるのか
自信がないと感じる方がアサーションに難しさを覚える背景には、いくつかの理由が考えられます。
- 失敗への過度な恐れ: 「もし断って関係が悪くなったら」「意見を言って否定されたら」といった失敗を強く恐れるため、行動に移せない。
- 自己否定感: 「自分の意見には価値がない」「自分が我慢すれば丸く収まる」といった自己否定的な考えが根底にある。
- 他者評価への依存: 相手からの評価や顔色を過剰に気にしてしまい、嫌われることを極度に恐れる。
- 過去の経験: 過去に自己主張してうまくいかなかった経験や、否定的なフィードバックを受けた経験がトラウマになっている。
これらの感情や思考パターンは、アサーティブな行動を阻害します。しかし、大切なのは、「自信があるからアサーションができる」のではなく、「アサーションを練習することで自信がついてくる」という側面もある、と理解することです。
アサーションの基本を再確認:自信の有無に関わらず持つ権利
アサーションとは、相手を尊重しつつ、自分の気持ち、考え、要望を正直に、率直に伝えるコミュニケーションスタイルです。「攻撃的」な自己主張のように相手を傷つけたり、「受動的」な態度のように自分を抑え込んだりするのではなく、自分も相手も大切にする「誠実」なコミュニケーションを目指します。
アサーションの根幹には、以下のアサーション権という考え方があります。
- 自分自身の意見や感情を持つ権利
- 自分の意見や感情を表現する権利
- 自分のニーズや要望を伝える権利
- 「ノー」と言う権利
- 自分の行動に対して責任を持つ権利
- 自分のアサーション権を行使しない権利
これらの権利は、自信があるかないかにかかわらず、すべての人に等しく与えられている、という考え方です。アサーションの練習は、これらの普遍的な権利を、現実のコミュニケーションで使えるようにするためのプロセスと言えます。
自信ゼロから始めるための心構え
アサーションの練習を始めるにあたり、完璧主義を手放し、以下の心構えを持つことが役立ちます。
- 小さな一歩から始める: 最初から大きな主張や難しい交渉に挑む必要はありません。挨拶をいつもより丁寧にする、感謝の気持ちを具体的に伝える、といった小さなアサーションから始めましょう。
- 自己受容を大切にする: 自信がない自分、不安を感じる自分を否定せず、「今はまだ練習中だから大丈夫」とありのままの自分を受け入れましょう。
- 失敗を学びの機会と捉える: アサーションを試みてうまくいかなかったとしても、それは失敗ではなく、次への学びです。「どうすればもっと伝わったか」「どんな点が難しかったか」を振り返り、次に活かしましょう。
- 肯定的なセルフトーク: 「どうせ無理だ」ではなく、「少しずつ練習すればできるようになる」「私も自分の気持ちを伝えていいんだ」と、自分自身に肯定的な言葉をかけましょう。
- アサーティブな人から学ぶ: 身近な人や、ロールモデルとなる人物で、関係性を損なわずにうまく自己主張している人を観察し、その話し方や態度を参考にしてみましょう。
具体的なアサーション練習ステップ
それでは、自信がない方が無理なく始められる具体的な練習ステップをご紹介します。
ステップ1:自分の気持ちや意見を「認識する」練習
自己主張の第一歩は、自分自身が「どう感じているか」「何を考えているか」を正確に認識することです。普段から自分の内面に意識を向ける練習をしましょう。
- 練習方法:
- 毎日の出来事に対し、「自分はどう感じたか(嬉しい、悲しい、疲れた、違和感があるなど)」を意識的に考えてみる。
- 新聞記事やニュースについて、「自分はどう思うか」を考えてみる。
- 今日のランチは何が食べたいか、どんな服を着たいかなど、日常の小さな選択で自分の「好き」「したい」を意識する。
- 可能であれば、日記などに書き出してみることで、感情や考えを整理する習慣をつける。
このステップは、誰かに伝える必要はありません。まずは自分自身が、自分の内なる声に耳を傾けることから始めます。
ステップ2:リスクの低い状況で「表現する」練習
自分の気持ちや意見を認識できるようになったら、次はそれを実際に口に出して「表現する」練習です。まずは心理的な負担の少ない状況を選びましょう。
- 練習方法:
- 感謝やポジティブな感情を伝える: コンビニの店員さんに「ありがとう」をはっきり伝える。美味しい料理を作ってくれた家族に「これ、すごく美味しいね」と具体的に伝える。
- 簡単な質問や確認をする: お店のスタッフに商品の場所を尋ねる。「〜について、もう一度確認させていただけますか」と同僚に声をかける。
- 短い感想や意見を述べる: 映画を見た後に「面白かったね」と感想を言う。「今日の天気は気持ち良いですね」と話しかける。
これらの状況は、相手からの否定的な反応を受けるリスクが比較的低いものです。自分の言葉で相手に伝える、という行為自体に慣れることが目的です。
ステップ3:非言語的要素を意識する練習
アサーションは言葉だけでなく、声のトーン、表情、視線、姿勢といった非言語的な要素も重要です。これらの要素を意識することで、より自信があるように見え、メッセージも伝わりやすくなります。
- 練習方法:
- 話すときに、相手の目を見て話すことを意識する(長時間見つめる必要はありません)。
- 背筋を伸ばし、自信のある姿勢を意識してみる。
- 落ち着いた、聞き取りやすい声のトーンで話す練習をする(一人で録音してみるのも良い)。
- 表情を意識し、伝える内容に合った表情(真剣な表情、穏やかな表情など)を心がける。
これらの練習は、鏡を見ながら、あるいは信頼できる人にフィードバックをもらいながら行うことも有効です。
ステップ4:簡単な「NO」を伝える練習
「断る」ことは、アサーションの中でも特に難しさを感じやすい側面です。まずは、断ること自体に慣れるための簡単な練習から始めましょう。
- 練習方法:
- 限定的な「NO」から: 「今すぐには難しいです」「今日は予定があるので、また別の機会に」のように、全面的に否定せず、理由や代替案を示唆する形から試す。
- 練習相手とロールプレイング: 信頼できる家族や友人に協力してもらい、「〜という誘いを断る」という設定で実際に断る練習をしてみる。
- 具体的な断り方のフレーズを準備する:
- 「お誘いありがとうございます。ただ、その日は先約がありまして、今回は見送らせていただけますでしょうか。」
- 「ご依頼ありがとうございます。大変申し訳ございませんが、現在他の業務で手一杯のため、お引き受けするのが難しい状況です。」
- 「それは良いアイデアだと思います。ただ、今の私の状況ですと、〇〇の点で少し懸念があります。」
最初から完璧な理由や言い訳を用意する必要はありません。まずは「NO」という言葉やそれに類する表現を口にする練習です。
ステップ5:DESC法の簡易版を試す
アサーションの代表的なフレームワークであるDESC法(Describe, Express, Specify, Consequence)は、複雑な状況で構造的に伝えるのに役立ちますが、最初は全てを使うのが難しければ、一部から試してみましょう。
- Describe (描写) + Express (感情・考え) の練習:
- 「〇〇さんが資料の△△の部分を修正してくださって(描写)、とても助かりました、ありがとうございます(感情・感謝)。」
- 「会議で私の発言中に、何度も他の話が入ると(描写)、自分の話を聞いてもらえていないように感じてしまいます(感情)。」
- Express (感情・考え) + Specify (要望) の練習:
- 「私は〇〇が良いと思うのですが(考え)、△△については、もう少し詳しく教えていただけますか(要望)。」
- 「その提案を聞いて少し不安を感じているのですが(感情)、具体的にどのようなスケジュール感になりますか(要望)。」
DESC法を全て使えずとも、自分の感じたことや考えたこと、そして相手への具体的な要望をセットで伝える練習は、関係性を損なわずに建設的な対話をする上で非常に有効です。
小さな成功体験を積み重ねる重要性
これらの練習ステップで、たとえ小さなことでもアサーションがうまくいった経験は、大きな自信につながります。「伝わった」「受け入れてもらえた」という肯定的な経験が、「次もやってみよう」という意欲を生み出し、アサーティブな行動のサイクルを回し始めます。
壁にぶち当たった時の対処法
練習中に相手から予期せぬ反応があったり、うまくいかなかったりすることもあるかもしれません。そんな時は、自分を責めすぎないことが大切です。
- 感情を受け止める: 落ち込んだり、傷ついたりした感情を否定せず、「今回は大変だったな」とそのまま受け止めます。
- 冷静に振り返る: 何がうまくいかなかったのか、自分の伝え方に改善点はないかを客観的に振り返ります(自分を責めるのではなく、次に活かす視点で)。
- 完璧を目指さない: 全ての人に、全ての状況でアサーションが成功するわけではありません。大切なのは、誠実に伝えようとしたプロセスそのものです。
- 必要ならサポートを: あまりに辛い場合は、信頼できる友人や家族に話を聞いてもらったり、専門家(カウンセラーなど)のサポートを検討することも有効です。
まとめ
自信がないと感じる状態からアサーションを始めることは、決して不可能なことではありません。それは、段階を踏んで練習し、少しずつ慣れていくスキル習得のプロセスです。
まずは、自分の気持ちや考えを「認識する」ことから始め、感謝を伝える、簡単な質問をする、といった「リスクの低い表現」で実践を重ねましょう。非言語的な要素を意識し、簡単な「NO」やDESC法の簡易版にも挑戦してみてください。
小さな成功体験を積み重ねることで、アサーションへの抵抗感は薄れ、少しずつ自信が育まれていくはずです。完璧を目指さず、今日からできる小さな一歩を踏み出してみましょう。あなたも、自分自身と相手を大切にするアサーティブなコミュニケーションを身につけることができます。